【フィリピン為替情報】ペソ安抜け出せず、外出制限厳格化を懸念

■これまでの動き
2日~13日

2日の米ドル・フィリピンペソ為替相場(オンショア・インターバンク市場)は、前週末終値から0.020ペソ高となる、1米ドル=49.950ペソで取引を開始しました。マニラ首都圏での外出・移動制限の厳格化に伴って経済活動が低迷し、米ドル需要が減退するとの観測からドル売り圧力がかかり、1米ドル=49.900ペソで取引を終了しました。
3日は企業の好調な2021年4~6月期の決算内容を受けて、フィリピン株式相場は大幅続伸となりました。ペソも主要アジア通貨の中で最も高い上昇率となるなど、3日連続での上昇となり約3週間ぶりの水準となる1米ドル=49.610ペソで取引を終えました。
4日はインフレ懸念後退観測によりペソは堅調に推移したものの、その後のドル全面高の流れからペソは反落し、1米ドル=49.750ペソで引けました。4日海外時間に米連邦準備制度理事会(FRB)のクラリダ副議長がタカ派的な発言をしたことを受けて米金利は上昇しました。
さらに、予想外の米国の原油在庫増加から米国産標準油種(WTI)の原油先物価格は3米ドル弱下落したほか、新型コロナウイルスの感染拡大でセンチメントが悪化しました。
5日はアジアの主要通貨は弱含む展開となりました。首都圏で最も厳しい外出・移動制限が6日に始まることを控え、フィリピン株式が反落したほか、制限措置の影響を勘案し、フィリピン中央銀行が預金準備率を引き下げるとの思惑からペソは大幅に下落しました。1日の下げ幅としては2013年6月以来となる、前日比0.485ペソ安の1米ドル=50.235ペソで取引を終えました。
6日は強い米雇用統計に対する警戒感から、米金利上昇がアジア時間も継続し、ドル全面高となりました。原油価格の上昇もペソ下押し圧力となり、1米ドル=50.400ペソで週の取引を終えました。
9日は前週末終値から0.090ペソ安となる、1米ドル=50.490ペソで取引が始まりました。強い米雇用統計を受けたテーパリング(量的緩和の縮小)が早期に開始されるとの観測から、主要アジア通貨が軟調となりました。
一方、フィリピン中銀のジョクノ総裁が預金準備率の引き下げは12日の政策決定会合の議題には含まれていないと発言したことがペソのサポートとなり、1米ドル=50.385ペソで取引を終了しました。
FRB高官による早期テーパリング開始に関するタカ派なコメントや、米インフラ投資法案可決を好感したリスクオンの流れを受けて、米金利上昇からドルが主要アジア通貨に対して強含みの展開となりました。
フィリピン統計庁(PSA)は10日、2021年4~6月期の実質国内総生産(GDP)が前年同期比11.8%増だったと発表しました。市場予想の10.9%を上回りましたが、米消費者物価指数(CPI)の発表や12日のフィリピン中銀の政策決定会合を控えて様子見ムードが強く、10日、11日は動意に欠ける展開となりました。
12日は7月の米消費者物価指数の上昇率が前月から鈍化し、米金利の低下に連れてドル売りの流れが広がったものの、フィリピンの株式の下落や原油先物価格の上昇がペソの下押し要因となり、方向感に欠ける展開になりました。
フィリピン中銀は政策決定会合で、6会合連続となる政策金利の据え置きを決定した。13日はイベントを消化し、特段のサプライズもなく材料難となるなか、狭いレンジでの取引が継続し、約1年2カ月半ぶりのペソ安となり、1米ドル=50.481ペソで週の取引を終えました。
一方、FRB高官から早期正常化に向けたタカ派発言が続いており、9月会合でのテーパリング発表が現実味を帯びています。ジャクソンホールと9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)が目先の注目材料ですが、強い雇用統計の内容やクラリダ副議長のタカ派発言を受けて、市場も早期正常化に対する準備がある程度整い、パニック的なリスクオフとなる可能性は限定的と考えられます。

■今後の展開
16~27日

フィリピン中銀は事前予想通り12日の政策決定会合にて、景気サポートを優先とする緩和的スタンスを維持しました。直近の消費者物価指数の上昇率も4%に低下し、中央銀行がターゲットとする2~4%の範囲に収まるなど、インフレ懸念後退により緩和的スタンスを維持する余地もできています。
感染力が強い変異株「デルタ株」の感染拡大を受け、首都圏では外出・移動制限の厳格化による経済見通しへの不透明感が増大しています。ペソは1米ドル=50.50付近でサポートされているものの、下押し圧力がかかりやすい状態が今後も継続する可能性が高いです。
金融政策では、正常化に向かう米国と緩和継続見通しのフィリピンとの方向性の違いから、ドル高ペソ安の地合いが継続する見通しです。1米ドル=50.00~51.00をコアレンジとする推移が想定されています。

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この記事の監修

家村均
家村均

一般社団法人 フィリピン・アセットコンサルティング
エグゼクティブ・ディレクター
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慶応義塾大学経済学部卒業後、東急に入社し、海外事業部にて、米国・豪州・ニュージーランド・東南アジアなどで不動産開発や事業再構築業務に従事。
また、経営企画部門にて東急グループの流通・メデイア部門の子会社・関連会社の経営・財務管理を実施した。(約15年)
その後は、コンサルティングファーム(アクセンチュア)や投資ファンド(三菱UFJキャピタル)などで、企業や自治体の事業再構築、事業民営化等の支援や国内外のM&A案件のアドバイザリーを実施し、2018年10月より、GSRにて、日本他の投資家および企業、ファンドなどに対してフィリピン不動産への投資や事業進出のアドバイザリーを行っている。

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